UX(ユーザエクスペリエンス)を考慮して量産設備は設計すること
今日は、社内にあるメーカ製の自動機の問題事例を紹介します。
製品をチャックした状態でテープを巻き、最後にカッターで突き出ししてテープをカットするというメーカ製作の設備なのですが、カッターの消耗があまりにも早く、10pcsほど注文していたのですがものの一ヶ月で使い切ってしまい在庫切れの状態…。
カッターの寿命を計算すると3 day/pcs となり、これは流石に短すぎて駄目だなという感じです。
問題点
なぜカッターが消耗してしまうのかというと、テープカットによる摩耗であればまだ救いようがあったのですが、製品のチャック位置が時々ズレることがあり、位置ズレを設備が検知できないままカッターを突き出して製品とカッターが衝突 → カッターの刃が欠けてしまうというものでした…。
以下の写真のように、歯が摩耗するというレベルではなく完全に欠けてしまっています。
起こってしまった問題は仕方無いのですが、この設備の運転条件を考慮すると製品のチャックミスは当然リスクとして考えておかねばならず、何故担当者が検知機能の追加をしなかったのか理解に苦しみます。
上下にある黒いパーツがチャックです。製品はお見せできませんが、搬送されてきた製品を押さえつけて持ち上げるので、製品の搬送位置がずれたり、なんかの拍子に跳ねたりしますとチャックミスが発生します。
チャックミスしても何も影響がないのであれば検知機能無しでもOKですが、カッターと製品が接触して破損してしまうのは致命的です。量産が継続できなくなってしまいますので。
生産数量ですが400,000pcs/Month を想定していましたので、それだけの数を流すと確率的にもチャックミスを起こす製品がいてもおかしくないなという気がします。(実際は1日1~5回程度の頻度でクラッシュが発生。)
UX(ユーザーエクスペリエンス)について
このような状態をIT用語で説明するとUX(ユーザエクスペリエンス)が考慮されていないと言うそうです。
人から聞いた単語なので私もUXの意味を正しく理解していないかもしれませんが、要は使い勝手や長期運用性がユーザ側の視点で考えられていないよねってことだと認識しています。
実験機レベルであればUXは多少無視してもコスト優先で問題ないかもしれませんが、量産機には稼働率を確保が求められますし、ましては納入先は海外工場ということで
事前に考えられるリスクは可能な限り排除しなくてはなりません。
結局、後からチャックミス検知機能を追加することになりましたが、後から機能を追加するというのは結構大変なことで設備改造による生産のロスにも繋がります。
量産機では必ず事前にUXを確認、検討するようにしましょう。
余談
私は新規設備を国内から移設する際は10万pcs以上の量的評価を実施してからラインを移設することを要求しています。
UXに何らかの問題がある場合は量的な評価をすることで課題が顕在化しやすくなりますし、課題が顕在化すれば事前のリスク検証/想定が苦手なエンジニアでも対策を考えざるを得ません。
この設備は残念ながら私が赴任する前に移設されてしまった設備でしたので、国内で十分なバグ出しがされていませんでした。
後から当時の評価内容を確認しますと、テストした数量は約3000pcsほどで、別の課題(そもそもテープが貼れない、剥がれる等)の対応に追われて量産性の確認は一切できていなかったとのことでした。
UXが考慮されていない設備は後々何かしらの問題が発生して生産現場の手を煩わせることになります。