気ままなモノづくり日記

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海外工場における設備保全の問題について 220703

海外工場における設備保全の問題について 220703

タイの海外工場に生産技術担当として赴任して1年半が経ちましたが、今一番のネックになっているのがローカルスタッフでの設備保全力の問題です。

自分自身、まだこの問題に対する解決策を導き出せておらず実行もできていないような状態になるのですが、タイにおける設備保全の問題に関して自分の中で見えてきたものを共有したいと思います。

あくまで現時点での自分の考えになります。

保全の問題点(直接的、表面的な問題)

ざっと現場で発生している設備保全関連の問題点を下記に箇条書きしてみたいと思います。

  • そもそもの保全スタッフのスキルが低すぎる。問題を分析できていないケースが多く解決できないどころか悪化させることがある。ラインの設備稼働率、不良率に大きな影響を与えている。
  • 保全ミスが発生しても誰がどのような背景/状況でミスを起こしたのか追及できない(犯人が分からない)。よって、正しいメンテナンスの方法を保全スタッフにフィードバックすることが難しい。
  • 恒久対策を考えられない。その場を凌げばOKの考え方で、再発防止策を検討しないため同じ問題が何回も繰り返し発生する。
  • ホウレンソウはほとんどない、メンテナンスレコードも残さない。そもそも、問題を隠そうとしている節があるようにすら見える。
  • PM(Periodical Maintenance)を実施できていない。チェックシートにはチェックが入っているが、実際はやり方が分かっておらずできない。それなら分かる人に聞けよ!と思うのだが…。
  • 労災が多発する。安全カバーを勝手に外して事故、ルール無視等の日本なら始末書案件の問題が放置されている。

etc....。とてもとても語り切れるものではなく、直近の私の仕事は社内のスタッフとの戦いといっても語弊が無いように思います。これらの問題を解決するためには、保全スタッフの置かれている状況や考え方を深く理解することが重要かと考えています。

保全問題の背景について

上記の諸々の問題が現場で発生する訳なのですが、その間接的な原因として組織上の課題、スタッフの教育レベル、ノウハウの引継ぎ、タイ人の気質といった間接的な問題点が当然潜んでいます。あまりにも多すぎるのでここでは一つ一つを深堀はせず、ここでは海外工場の保全問題とタイの文化的背景の関連性について私なりに分析した考えを述べたいと思います。(一部は私の偏見かもしれないとお断りしておきます)

タイは階級社会

タイは日本と比べると階級社会が根強いと言われており、目に見えて分かる制度や明確な階級は無いものの、エリートの家系に生まれた人はずっとエリートですし、そうでない家系に生まれた人は中々貧困から抜け出せなくなっているようです。

それは、海外工場の労働者の中にも存在しており、マネジメント層は英語をバリバリ話せて優秀な大学を卒業したエリート層で構成されており、一方で保全スタッフや作業者といった現場で直接労働しているスタッフは少し教育レベルの低い人材を採用している形です。

保全問題というのは直接労働スタッフの階層で発生する問題なのですが、マネジメント層と直接労働スタッフの間には立場だけではなく文化的な壁が存在しています。保全スタッフは当然タイ語しか話せないため、保全問題こそローカルのマネジメント層に協力を得たい案件なのですが、どうしてもマネジメント層のスタッフはこの問題に真剣に対応しようとしていなさそうに見えてしまいます。保全問題の一番のポイントは、マネジメント層(経営)と直接労働スタッフ(現場)のの乖離の大きさにあると考えています。

ローカルのマネジメント層が保全問題に協力的でない

前の章で、直接労働スタッフとマネジメント層の文化的な壁があることを説明しました。保全スタッフは十分な基礎教育を受けていないため現場の問題を解決できずに困っている、にも関わらずマネジメント層は現場を見ようとせずマネジメント層だけで見当外れな解決策を考えて現場に更に負荷をかける。

このようなことが日々繰り返されているように見えます。

保全問題は設備稼働率、不良率に大きな影響を与えますので立派な経営課題であるのですが、現場の泥臭い問題は直接労働スタッフが対応すべきでマネジメント層が手を下すことではないと考えているような節があります。

保全問題を経営課題として捉えたい

言い方が悪いですが、保全問題はマネジメント層からすると完全に他人ごとなんですよね。手を汚さず口を出すだけで、深いやり取りには決して関わろうとしません。

しかしながら、現場力が弱いことによってトラブルが多発して、結果として火消のためのマネジメントの仕事も増えてしまっている訳ですので、現場力を改善しなければ半永久的に火消業務(問題の対処)に終始してしまう訳です。これを経営課題として捉えて保全問題にしっかりと入り込み現場力の改善に力を注ぐべきです。

現場の問題を未然に防止することが本来あるべきマネジメントだと思いますので、現場の問題を報告するだけ、突発的なトラブルに対処するだけな仕事はマネジメントとは言えません。

(私はタイのマネジメントは超対処型マネジメントだと考えています。基本的に問題が発生してからあれやこれやと火消しに走るのですが、火が消えればとりあえずOKとしてしまい火元の対処、つまり問題の本質にはあまり触れようとはしていないように思います。)

保全問題改善のために

吉田松陰の言葉をお借りしますが、教育とは生徒と一緒になって成長するものを教育と呼ぶ訳で、上から一方的にしかも自分達が手を汚さずして問題を片付けようとするのは全く教育とは呼べない訳です。

保全スタッフの問題を自分事として考えて一緒に解決策を考えられる人がいなかったことが、今の保全の問題につながっているのだろうと私は考えています。

現場の直接スタッフこそ一番大切にしなければならない会社の財産ですので、そこをローカルスタッフにも理解してもらう必要があるかと考えています。

今の保全問題を解決するためには、上の人間が積極的に保全スタッフに関わって、自ら学びながら実践することで保全問題を現場と一緒に解決していく必要があると考えています。私自身も口だけで仕事をすることにならないように、可能な限りは彼らの内に入って一緒に問題解決をしていこうと考えています。

ですが、言語の問題で保全スタッフと私の意思疎通が難しいという問題がありますので、もっとタイ語を勉強しないといけないなと常々考えております。

 

この手の問題はこうすれば大丈夫!といった明確な解がある訳ではありませんので、今後も継続的にトピックに取り上げていきたいと思います。

余談 もう一つの文化的側面

タイでよく聞く文化的背景の一つですが、他人のやり方に口を出さないというところがあります。これはタイ人の温和な気質によるところがあると思うのですが、誰だって自分のやり方に駄目出しをされると気分が良くないですし、トラブルを避けることを優先して他人のミスに対して口を出さないという文化的な考え方があるのかなと考えています。ちなみに、ミスした犯人を追及しないことが美徳とされている、というのもタイならではの価値観だと思います。

とはいえ、きちんとしたやり方を教えてあげないことには成功体験が得られない訳で、成功体験が得られないことは成長につながりませんし、それが本人にとって本当の優しさと言えるのか、美徳だからといって放置するのは違うというのが私の意見です。

このあたりは粘り強くローカルスタッフと会話していく必要があるかと考えています。